相変わらず、『財源は税金でなければならない』と信じている方が、多いと思われるので、
Forbes から、明快な記事が出たので、ご紹介します。
2020/05/16 12:00
すでに行われている経済縮小への初期対応が無駄にならぬようやむを得ないとはいえ、政府は巨額の財政負担を背負えるのかという疑問を抱く人も少なくないのではないだろうか。
パウエル議長は4月末にも、経済活動の「前例のない」落ち込みを警告し、現在は財政赤字への懸念による「妨害を許す時ではない」と断言していた。
財務省は5月4日、第2四半期に過去最大の3兆ドル(約320兆円)の借り入れをする方針を明らかにし、米連邦政府の債務残高は5月6日までに25兆ドル(約2560兆円)の大台を突破。今後も前例のないペースで拡大する見通しだ。
とりわけ「財政赤字を膨らますのは悪いことだ」「財政収支のバランスを取らないといけない」という一般的な通念に照らしてみれば、経済対策の財源をどこに求めるかという議論は重要だ。
緊急事態下において、果たして財源の見通しをどこから得ているのだろうか。
「政府支出に財源の裏付けは必要ない」MMTの財政赤字論
この疑問に答えた、ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校教授のステファニー・ケルトンのツイートが話題だ。FRBによる緊急の経済対策が開始された3月半ばに、彼女はニューヨークタイムスで以下のように語っている。
「この公衆衛生上の危機が金融危機へと変貌した際、FRBはすぐさま行動し、1週間足らずで数兆ドルを金融システムに投入しました。 銀行に短期ローンが提供され、金利は実質的にゼロへと引き下げられ、7000億ドル相当の米国国債と不動産担保証券の購入開始が発表されたのです。その後、FRBは信用の流れをサポートするために、最大1兆ドルのコマーシャルペーパーを購入する権限を自らに与えました(追加の対策は確実に続くでしょう)。
一連の発表が行われる中、私はリーマンショック時のFRB議長であるベン・バーナンキの8秒間ほどの動画をツイートし、中央銀行がこれら1兆ドルの措置を実現するために、資金をどのように工面しているのかを説明しました」
For those who might be wondering, “Where did the Federal Reserve get the $1.5 trillion they just committed to injecting?”
A blast from the past explanation of how it all works.
司会者「FRBが支出に用いたのは税金だったのですか?」
バーナンキ「いえ、税金ではありません。私たちはただ、コンピューターを使って操作しただけです」
「いえ、税金ではありません。今回救済された銀行は、ちょうどあなたが市中銀行に口座を持っているのと同じような感じで、FRBに口座を持っています。だから銀行に融資するために行うことは、彼らのFRBの口座をコンピューターを使って操作するだけです。それは借りるというよりも、お金を印刷することにはるかに似ています」
バーナンキ元議長によれば、リーマンショック時のFRBの1兆ドルの銀行救済策の財源は、「コンピューターを使って口座を操作する」ことによって贖われた。「無からの創造」のような話だが現実の出来事である。
議会がFRBに支出を指示をするならば、コンピューターのキーボードを叩くだけでお金を生み出せるという事実は、「キーストロークマネー」と呼ばれている。MMT(現代貨幣理論)の提唱者として知られるランダル・レイは『MMT現代貨幣理論』(島倉原監訳、鈴木正穂訳、東洋経済新報社)のなかで、バーナンキ元議長の同じエピソードを引用している。
「政府はキーストローク、つまりバランスシートへの電子的な記帳行うことで支出する。そうするための能力に、技術的なあるいはオペレーション上の限界はない。キーボードのキーがある限り、政府がそれを叩きさえすれば、利払い資金が生み出されてバランスシートに書き込まれる」
もし「バランスシートへの電子的な記帳を行う」ことで政府支出がなされるのだとすれば、「経済対策の財源をどこに求めるか」ということはそもそも問題になり得ない。4月17日に英紙ガーディアンに掲載された「新型コロナウイルスが打ち砕いた財政赤字という神話」の中で、彼は次のように述べている。
「この緊急経済対策で用いた額をどのように支払うのかを真剣に問う者など誰もいないし、もしいたとしても、問うべきではない。連邦政府が財政支出に用いた『代金を支払う』必要があるという神話を論破するには、世界的なパンデミックが必要だった」
コロナウイルスの影響で閑散とするウォールストリート(Getty Images)
一般的には、どんな政策を実行するのにも財源の裏付けが必要だと強く思い込まされてきたし、財源とは税収や国債によって賄われるものであり、借金が膨らみ過ぎると財政破綻のリスクが増すと言われてきた。しかし、MMT派はこの発想自体が誤りだと強調する。
駒澤大学経済学部准教授で経済学者の井上智洋が『MMT 現代貨幣理論とは何か』(講談社)のなかで指摘するところによれば、「自国通貨建てで借金をしている国が財政破綻することはない」ということは、主流派経済学者であっても受け入れざるを得ない事実だという。
コロナショックで潮流に変化 MMTが「ニューノーマル」に?
MTT提唱者ランダル・レイは自著で「政府の財政は家計や企業のそれとは全くの別物だ」と主張している。
「主権を有する政府が、自らの通貨について支払い不能となることはあり得ない。自らの通貨による支払い期限が到来したら、政府は常にすべての支払いを行うことができるのである」
なぜだろうか。彼によれば、主権を有する政府は、自分たちでお金が作ることができるのだから、この点において支出に制約はないということだ。同書の解説で経済学者の松尾匡が述べているように「通貨発行権のある政府にデフォルトリスクはまったくない。通貨が作れる以上、政府支出に財源の制約はない。インフレが悪化しすぎないようにすることだけが制約である」。
この議論に添うならば、財政収支を均衡させること自体には意味がない。言い換えれば、全体としてインフレが管理可能なところに抑えられているならば、赤字は問題とならないということだ。増税などの緊縮政策が必要となるのは、財政赤字を解消するためではなく、社会が好景気となりインフレを抑える必要がある場合に限られる。
そもそも財政赤字とは民間の資産増を意味しており、民間への資金供給のことだと言い換えることもできる。逆に、財政黒字とは民間の借り入れ超過を意味し、失業が存在する中ではむしろ経済に悪影響を与えるという見方もある。
英ヘッジファンド、ユリゾン・SLJキャピタルのスティーヴン・ジェン氏はブルームバーグの記事の中で、コロナショックによって潮流は変わりつつあるとし、次のように今後を予想する。
「巨額の財政赤字を中央銀行がすべて引き受けることが『ニューノーマル』になる可能性が高い。意図的であるかどうかにかかわらず、われわれはみなMMTにシフトしているのだ」
「財政赤字が膨らむと破綻のリスクが増す」という主張が「神話」であり、今回の新型コロナウイルスへの緊急経済対策がその証左であるとするならば、ポストコロナのわたしたちの経済にはどのような道が開かれているのであろうか。
後編では、コロナ禍においてMMTとともに語られることの多い経済政策「グリーンニューディール」に注目したい。