黒田日銀10年の成果:日銀当座預金545兆円を有効活用しよう

1 はじめに

前々回の記事『異次元金融緩和10年とその出口戦略』で示したが、黒田前日銀総裁は、『異次元の金融緩和』と称して、就任直後の2013年から、退任の2023年までの10年間、民間銀行の国債を買いまくった結果、民間銀行の資産である日本銀行当座預金を43兆円から、実に545兆円という前代未聞の莫大な額にまで増大させた。『10年間で500兆円』も増やしたのである。

これは、もちろん、日本銀行の持つ通貨発行権による信用創造をフル活用した結果であるが、それらが、いまだに有効に活用されないで、そのまま日銀当座預金口座に残高として残っている、すなわち放置されている、のだ。

各種の出口戦略は議論されているが、いずれも日本経済の再生に寄与するものではない。

では、何のために、黒田氏は、通貨発行権を駆使して、このような莫大な通貨を発行し続けたのだろうか?

今回は、この疑問について考えてみたい。

2 『10年間で500兆円』の意味は

前々回にも示したが、日銀統計資料より、日銀当座預金を含めたマネタリーベースの時系列データのグラフを下に再掲する。

日銀ホームページより マネタリーベース
マネタリーベース平均残高を展開し、マネタリーベース平均残高、うち日本銀行券発行残高、うち貨幣流通高、うち日銀当座預金を抽出条件に追加し、抽出対象期間を1990年から2023年、期首変換を、暦年、期末として、グラフをクリックすると本グラフが得られる。

ここで、あらためて、『10年間で500兆円』とは、どういうことなのか、見てみよう。

このグラフを見ると、日本銀行当座預金(日銀当座預金・民間銀行の資産)が、2012年の43兆円から、2023年の545兆円へと過去に例を見ない異常な増加を示しているが、その10年間の増分は、

545兆円-43兆円=502兆円≒500兆円

これは、1年あたりに換算すると

500兆円÷10年=50兆円/年

となる。

黒田氏が実施した、『10年間で500兆円』の意味 は、『年間50兆円の新規通貨の発行』、ということになる。これを『異次元の金融緩和』というが、これを実施した黒田氏の思いを拝察すれば、黒田氏は政府に対して、

『日本銀行としては、毎年50兆円の新規通貨を発行するので、政府としては、このお金を有効に活用してもらいたい』

という思いが込められていたのではないか、と拝察できるわけである。なぜならば、これ以外に、黒田氏が、このような『異次元の金融緩和』を実施して日銀当座預金額を異常に増大させた理由が見当たらないからである。

3 政府が日銀当座預金を有効に使うには

では、政府がこの日銀当座預金を有効に使うには、どうすれば良いのか。

日本銀行当座預金の主な役割が、日銀ホームページにあるが、それによれば

日本銀行当座預金は、主として次の3つの役割を果たしています。

(1)金融機関が他の金融機関や日本銀行、あるいは国と取引を行う場合の決済手段
(2)金融機関が個人や企業に支払う現金通貨の支払準備
(3)準備預金制度の対象となっている金融機関の準備預金

とある。

ここで、日銀当座預金について説明する。日本銀行は、民間銀行の銀行である。我々が、民間銀行に預金口座を持っているのと同じように、民間銀行は、日本銀行に預金口座を持っている。それが、日本銀行当座預金口座だ。

また、政府も日本銀行内に政府預金口座を持っている。

したがって、日銀当座預金の最も手っ取り早くて、しかも日本経済のプラスになる消化法(出口戦略)は、日銀当座預金のお金を日銀政府預金に移して、政府による日本経済にプラスになる施策に生かすことである。特にこのデフレ時代の、民間企業の投資意欲の冷え込んだ時代には、政府主導による事業の実施が、最もふさわしい政策と言える。

民間銀行の日銀当座預金から政府預金へ資金を振り替える方法としては、日本政府が責任を持つ国債を発行して、民間銀行に売却する方法が最も一般的だ。国債売却代金は、日銀当座預金口座から日銀政府預金口座へと振り替えられる。こうして、政府は、日銀政府預金を得ることにより、この資金で、政府事業を実施することができ、日本経済再生に生かしていくことができるわけである。

この国債売却に伴う日銀当座預金から日銀政府預金への振替決済が、前述『日本銀行当座預金の主な役割』の

(1)金融機関が他の金融機関や日本銀行、あるいは国と取引を行う場合の決済手段

にあたるわけである。

4 黒田前日銀総裁の思い

あらためて、『異次元の金融緩和』を実施し続けてきた黒田氏の思いを整理すると

政府は、日銀が毎年作った50兆円の日銀当座預金に対応した国債を発行して、これを民間銀行に売却して政府預金すなわち財政資金を確保し、この資金を日本経済の再建に役立てていただきたい

と言うことで、失われた〇〇年の回復・日本再興を期待していたのではないかと、思うわけである。

また、民間銀行から見ても、この莫大な日銀当座預金を超低金利のまま持ち続けているよりは、金利の高い国債に変えて持つ方が、はるかに有利なので、政府の国債発行による日銀当座預金の消化は、民間銀行にとってもプラスになる政策と言える。

5 これからの取るべき道

以上から、これからの取るべき道は、前項の『黒田前日銀総裁の思い』を実現することだと思うが、単に、これを実施すると、今まで通り、民間企業に渡ったお金は、国民の賃上げには回らずに、企業の内部留保に留まってしまう、という心配がある。

したがって、最善の方法は、コロナ騒動時に行われた、国民への直接給付だ。年間50兆円を国民に還元するのだ。

50兆円 ÷ 1億2000万人 ≒ 42万円/人

つまり、年間国民一人当たり、42万円の給付となる。

年間42万円とは、わずかなものだが、これと消費税廃止を組み合わせれば、相当大きな効果が出ると思われる。

最後に、国債発行による、財政破綻論が、財務省により喧伝されているが、そのような心配は、全くない、ということについて説明しておきたい。

これについては、『国債発行とは、どういうことか?(改定1版-2023/12/17)』に詳しく説明してあるが、ここでは、ごく簡単な事例で、説明しておきたい。

① まず政府が、国債100円を発行して、道路100円を作ったとすると、その仕分けは次の通りとなる。

資産 負債
道路 100 国債 100

② 次に道路を作った民間企業は、その代金の支払いを受けるので、その仕分けは次の通りとなる。

資産 負債
預金 100 支出(含む利益) 100

以上から、政府が国債を発行して、その売却代金で道路を作れば、政府にとっては、道路という資産ができる。

また、民間企業は、材料費・人件費・利益を含んだ支出を提供することにより、道路を完成したら、それと同額の預金を得ることができる。

したがって、政府の国債という負債の発行による政府事業の実施は

① 政府の所有物である道路という資産を生み出す

と同時に

② 民間企業の所有物である預金という資産を生み出す

わけである。

つまり、国債の発行による政府事業の実施は、政府および民間にダブルの恩恵を与えるものであり、最善の経済政策だと言えるわけだ。

また、過去の国債の発行残高というものは、こうした資産を生み出してきた過去の経緯を示すだけのもので、何の問題もないわけである。

国債の有効期限は有限であるが、日本国が存在する限り、国債は、借換発行し続けていけるので、返済問題は生じない。

国債の償還が必要になった場合には、今回の『異次元の金融緩和』のように、日本銀行が買い取って、通貨を発行すれば良い。

もちろん、孫子の世代にツケを残す、などということは、全くない。

今のところ、全く心配はないが、適度なインフレ率となった場合には、国債発行額を調節をすれば良い。

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