消費税の10%への引き上げが来る10月に予定されているが、この引き上げに反対する方々の論理の中に、【重大な抜け】がある、という感じがする。
この方々の主張を簡単にまとめると、
① 現在はデフレ不況であり、実質賃金は下降しつつある。
② このような時に貧困層に厳しい消費税を上げると消費は冷え込み、貧富の格差はますます拡大する。
③ したがって、上げるべきではない。
④ 国債発行による財政拡大で需要を喚起し、実質賃金の上昇を果たすべきである。
とまあ、こんな感じになる。
この主張を問題点とともに整理すれば、
消費税増税 → 貧富の格差拡大
したがって、
貧富の格差拡大を防ぐ → 消費税増税反対
としており、これだけにとどまっている。
そして、なぜか、
国債発行による財政拡大 → 国民の賃金上昇
と無理な論理が展開される。
この論調を見ていると、消費税が導入された当時の税制改悪の状況が、まったくおわかりになっていないのか、完全に無視をされているのか、疑いたくなる。
あたかも、消費税が突然あらわれて、貧富の格差を拡大していったかのように言われる。
格差拡大の最大の要因は、消費税導入ではなく、消費税導入以前に行われた税制の改悪にある。消費税は、その改悪の結果出てきた問題点を解決するための対策として導入された税制だからだ。
消費税導入以前の税制改悪については本ブログのメインメニューにある財務省『消費税引き上げの理由』のデマ!に詳しく説明してあるのでこれを見ていただきたいが、要は、高額所得層の所得税の累進課税率の大幅引き下げによる税金収入の落ち込みをカバーするために消費税が導入された、のだ。
ここで、再度、当時から現在までの税制の改悪状況を整理すると以下の通りとなる。
① 高額所得層の所得税率の大幅引き下げ・・・富裕層の優遇策
↓
② 政府の税金収入が大幅に落ち込む
↓
③ 税金収入落ち込み対策が急務
↓
④ 消費税の導入(当初3%)決定
税収不足で3 → 5 → 8%へ引き上げ
その間、高額所得層の累進課税率引き下げ継続・・・富裕層の更なる優遇策実施
↓
⑤ 貧富の格差、さらに拡大
要約すれば、この40年間に行われてきた税制の改悪、すなわち、税金負担の主体を高額所得層から一般大衆への転換が、貧富の格差拡大の原因なのであり、次の2つになる。
① 高額所得層の累進課税率の大幅低減
② 消費税の導入
上記の消費税反対論に抜けているのが、①の論点だ。①と②は、セットだからだ。
そして、その結果、本ブログ前回の世界の動きと日本の針路の図4に示したとおり、税金収入構造の内訳の中で消費税が、ついに所得税を抜いてトップになってしまった。
日本の税金は、直接税主体(高額所得層負担)から、間接税主体(一般大衆負担)の構造へと大きく転換されてしまった。『社会保障の財源は、広く負担していただく消費税が最もふさわしい』という、いかにももっともらしいが、全く誤った考えに誘導された。
正しくは『社会保障の財源は、高額所得層から低額所得層への富の再配分により生み出されるのが最もふさわしい。そのためには高額所得層の累進課税率の適正化が必要』。
したがって、消費税引き上げに反対するなら、同時に所得税の高額所得層の累進課税率を1980年代の税率に戻す(すなわち税率の大幅引き上げ)必要がある、と主張すべきだと思うが、これには、一切ノーコメントだ。
思うに、消費税引き上げ反対論者の多くが、高額所得層に該当する方々だからだと思う。
やはり、自分の身に降りかかることは、いやなのだろう。
財務省『消費税引き上げの理由』のデマ!の最後にも書いたが、全世帯のたったの1割にあたる年収1000万円以上の高額所得層の累進課税率を1980年代の税率に戻すだけで、消費税は全廃することが出来る。実に9割の世帯の人々が助かる。
それもそのはずである。単に消費税導入当時のプロセスを逆に実行するだけで済むからだ。
ところが、消費税引き上げ反対論者の多くは、全世帯のわずか1割の年収1000万円以上の高額所得層に該当するため、累進課税率の復活には反対なのだろう。
かわりに、次のように主張してごまかそうとする。
『自国通貨建ての国債にはデフォルト(債務不履行)は考えられない』(日銀HP)ので『大いに国債を発行して需要を喚起して景気を良くすれば、自然に賃金も上昇する』と夢(トリクルダウン)のような話で、9割の国民を煽る。しかし、これでは、企業は大いにもうかるだろうが、これまでの実績の通り、賃金には跳ね返らず、相変わらず内部留保が増えるだけになるだろう。貧富の格差は、ますます拡大するだけだ。
やはり、貧富の格差縮小は、富の再配分を高額所得層の所得税累進課税率強化サイクルで回していかなければ、達成できない。
財務省を悪者にしているが、残念ながら法律的にも、財務省の基礎的財政収支の黒字化という目標は、違法にはならない。したがって、消費税引き上げ反対論者の言う『国債発行論』も財務省との間では、単なる『子供の喧嘩』として、延々と続くだけである。その間に、9割国民の貧困化は、否応なく進む。
したがって、結論として言えることは、財務省は、税金収入で基礎的財政収支のバランスを求めようとしているので、財務省に対しては、税金論として、『高額所得層の所得税の累進課税率の引き上げ、実際には、1980年代の税率に戻すだけで基礎的財政収支のバランスをはかることができるから、消費税は廃止して、高額所得層の累進課税率の復活で対処べきである』と、正々堂々と申し入れるべきであると思うが、いかがでしょうか。