政府が国債を発行して、その売却資金で事業を実施する、いわゆる財政出動による政府事業を実施するときのプロセスは、次の2つに分けることができます。

  1. 国債を発行して、民間銀行に売却する
  2. 売却資金で政府事業を実施する

このプロセスで、まず問題になるのは、1項で、民間銀行が国債を買う時の購入資金は、何なのか?ということです。
その資金の出所として、主に次の2つが、論点となります。

  1. 民間銀行が預かっている国民の預金を使う
  2. 民間銀行が日本銀行に預けている日銀当座預金を使う、もしくは、日本銀行から国債を担保として借金をして日銀当座預金に日銀の通貨発行(信用創造)による資金を入金してもらい、その預金を使う

ここで、多くある誤解は、1項が正解、というものですが、1項は誤りで、2項が正解なのです。
その理由を簡単に言えば、1項の預金は、預金者にとっては、資産ですが、銀行にとっては、国民から要請があれば、いつでも支払わなければならないので負債となります。負債で資産を買うことはできないので、民間銀行にとって資産となる国債を、負債である預貯金で買うことは出来ないからです。
また、私たちが、民間銀行からお金を借りるときに、民間銀行は、他人の預金という負債を貸し出して、貸付金として資産計上することは、できないので、預金から貸し出すことはできません。

民間銀行は、担保を押さえてから、信用創造で、単に私たちの預金通帳にプラスの数字を記入しているだけなので、民間銀行は、自分の銀行が持っている預金額の大小に関係なく、信用さえあれば、貸し出すことができるわけです。

日本銀行が民間銀行へお金を貸し出すときには、これと同じように、国債を担保として、日本銀行は、信用創造で新規通貨を民間銀行の日銀当座預金に数字をプラスしているだけなのです。

したがって、正解は、2項と言うことになります。

具体的には、日本銀行金融研究所のホームページにあります『日本銀行の機能と業務』の
『第4章決済と日本銀行の役割』のP.82の前段、

 『その後,2001 年には国債決済の RTGS 化を行い,その際には,国債のDVP
決済の 円滑化のために,国債 DVP 同時担保受払機能(ITC 機能)を導入した。
同機能は,国債の買い手である金融機関が,売り手から受け取る国債を担保に日本銀行から日中
当座貸越を受け,同時にその資金を当該国債の買入代金の支払いにあてることができる仕組みで,
流動性の節約に有効であることから広く用いられている。』

を、ご覧ください。 これは、簡単に言えば、

『民間銀行が国債を購入する場合に、日本銀行がその購入資金を国債を担保に民間銀行に貸付ける、
すなわち、当該民間銀行の日銀当座預金に資金を供給することができる、ということで、日銀による国債を
担保とした信用創造による民間銀行への資金供給により、民間銀行は、国債を購入している』

ということです。

民間銀行は、国債購入時に日本銀行から借金をするわけですが、このお金は、政府に入ります。政府は、そのお金で、
民間業者に事業を依頼し、事業が完了した暁には、民間業者に、代金を政府発行小切手で支払います。
民間業者は、政府小切手を民間銀行へ持ち込み、民間銀行は、民間業者の預金額をその額だけ増やすとともに、その政府小切手を日本銀行に持ち込み、日本銀行内の政府預金からの民間銀行の日銀当座預金へ、政府小切手の金額を振り替えてもらう、ということになります。

以上を、まとめると、政府が国債を発行して、民間銀行に売って、その資金で事業を実施すれば、

  1. 民間銀行には、その金額が還流されて戻ってくるので、国債購入資金が枯渇することはない
  2. 民間業者には、預金という資産が、新たに生まれる
  3. 政府にとっては、国債という負債は、増えるが、同時に事業を実施することができ、GDPの成長に貢献する

ということで、国債発行による事業の実施は、政府・民間の両方にとって、一挙両得の施策と言えます。

国債残高の累計記録は、日本のGDPを成長させた痕跡となる指標であり、心配する必要は全くないもので、我が国の成長にとっては、大きければ大きいほど、政府がGDPの成長に貢献してきた、ということになります。

政府が、国債を発行して政府事業を実施した場合、その国債発行で得た資金は、どこに行くのか、次の、自動車購入を例として、簿記会計の仕分けのルールにしたがって、追跡して、明らかにしてみたいと思います。疑問点等ありましたら、コメントいただきたいと思います。

【政府が100万円の国債を発行して、民間銀行に売却し、そこで得た売却資金を元手に、
民間企業(自動車会社)から、100万円の車を購入する。】

具体的なプロセスは次の4つとなります。

① 民間銀行が国債購入資金を日本銀行から借りる=日本銀行による国債を担保とする【信用創造】で、民間銀行の日銀当座預金に入金される。
② 政府が国債を発行し、民間銀行へ売却する。民間銀行は、国債購入代金を、①で借り受けた民間銀行の日銀当座預金から、日銀内にある政府預金に振替える。
③ 政府が民間企業から車を買って、代金として民間企業へ政府小切手を振り出す(財政出動)。民間企業は、これを民間銀行に持ち込み、民間企業の預金を増やしてもらうと同時に、民間銀行は、政府小切手を日本銀行に持ち込み、政府預金から民間銀行の日銀当座預金に資金を振替えてもらう。
④ 民間銀行は、振り込まれた③の日銀当座預金から、日銀へ①で借り受けた借入金を返済する。

以上のプロセスを、表1仕分けのルールにより追跡すると、表2になります。

表1 仕分けのルール

借方 貸方
資産 増(+) 減(ー)
負債 減(ー) 増(+)

表2の中で【機関名をクリック】欄の各機関名をクリックすると、

  1. メッセージボックスに、前記①~④のプロセスごとに、その機関における仕分けの内容が表示され、OKボタンを押すと
  2. 表2の右側の【借方】、【貸方】欄に、1の仕分け内容が表示されます。

また、ブラウザの【再読み込み】ボタンをクリックすれば、表示内容がクリアされますので、再度、試すことが出来ます。

表2 プロセス別の各機関別の仕分け内容

 プロセス  機関名をクリック  借方  貸方
①民間銀行が国債購入資金を日本銀行から借りる=日本銀行による[信用創造]  民間銀行
 日本銀行
②政府が国債を発行し、民間銀行へ売却する。民間銀行の国債購入資金は、①で借りた日銀当座預金であるが、これが、政府預金へ振り替えられる。  民間銀行
 日本銀行
 政府
③政府が民間企業から、車を購入する[財政出動]。政府は、口座を日銀内にしか持っていないため民間企業への支払いは、日銀内の民間企業が取引する民間銀行の日銀当座預金経由となる。  政府
 民間企業
 民間銀行
 日本銀行
④国債を購入した民間銀行が借入金を日本銀行へ返済する。  民間銀行
 日本銀行

表2の仕分けは、プロセスごとに作りましたので、関係機関別に整理しないと、トータルとしての、結果がわかりません。

表2を見ると、借方、貸方に同じ内容の科目がありますが、これは、お互いに相殺することが出来るので、結果は、単純な形になります。

表2のプロセス別の各機関ごとの仕分け内容を、機関別・プロセス別に整理した仕分け内容が、表3となります。

表3で、プロセス欄をクリックすると、その機関の仕分け内容の説明がボックス表示され、OKボタンを押すと右欄に仕分け内容が
表示されます。

Total欄をクリックすると、左右の同じ項目が相殺されて、残った科目だけのTotalが表示されます。

続けて、Total欄をクリックすると、その根拠として、左右の同じ内容の科目に取り消し線が表示されます。
さらに、Total欄をクリックすると取り消し線が、消去されます。Total欄は、取り消し線のトグルボタンにもなっています。
また、ブラウザの【再読み込み】ボタンをクリックすれば、クリアされるので、何度でも試すことが出来ます。

表3 機関別・プロセス別の仕分け内容

 機関名  プロセス  借方 貸方
民間銀行 ①民間銀行が国債購入資金を日本銀行から借りる
②政府が国債を発行し、民間銀行へ売却する。民間銀行は、日銀当座預金で支払う。
③政府が民間企業から車を買う。政府は政府預金で支払う
④民間銀行が借入金を日本銀行へ返済する
Total    
 日本銀行 ①民間銀行が国債購入資金を日本銀行から借りる
②政府が国債を発行し、民間銀行へ売却する。民間銀行は、日銀当座預金で支払う。
③政府が民間企業から車を買う。政府は政府預金で支払う
④民間銀行が借入金を日本銀行へ返済する
Total    
政府 ②政府が国債を発行し、民間銀行へ売却する。民間銀行は、日銀当座預金で支払う。
③政府が民間企業から車を買う。政府は政府預金で支払う
Total    
民間企業 ③政府が民間企業から車を買う。政府は政府預金で支払う
Total    

 

以上、国債発行による政府事業の実施という一連のプロセスを具体的な仕分けとして追跡してきましたが、
その結果わかった重要なポイントは、次の4点です。

  1. 民間銀行が、国債を購入する際に支払った資金は、政府事業完了後、ふたたび民間銀行に還流して戻るので、枯渇することはない。したがって、いつでも政府発行の国債を購入することができる。
  2. 前1により、仮に民間銀行が、日本銀行から国債を担保に購入資金を借入しても、政府事業が完了すれば、その借入金は還流されてくるため、民間銀行は、日本銀行への借入金の返済で困るということはない。このため、借金しながら、永続的に買い続けることも可能である。
  3. 民間銀行は、国債と普通預金を同時に獲得出来る。
  4. 民間企業には、普通預金という新たな資産が生まれる。

したがって、政府の国債発行による政府事業の実施は、民間の預金を増やすことになるので、『孫子の代まで借金を背負わせる』という財務省の説明は、まったく逆で、ウソと断定できます。

財務省は。国債発行枠を拡大し、失われた40年のGDP挽回に即刻取り組まなければ、日本の明日は、致命的なダメージを受けることになると思います。

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