『国の借金は国民の借金』のゴマカシを解く

1 財務省によるゴマカシ報道

よくテレビや新聞を見ると

『今や国の借金は、1200兆円、国民一人当たり1000万円の借金、これは、税金で返さなければならない。
したがって、このような大きな負担を孫子の代まで背負わせることは出来ないので、消費税などの増税が不可欠』

と、国債発行による財政出動(インフラ整備や国民給付などの政府支出による政府事業の実施)は、悪であると言う報道を目にする。

これが、財務省によるゴマカシ報道だ。

この借金論は、負債面のみを取り上げて、ゴリ押しした、会計原則を無視した国民を欺く暴論・謀略である。

会計原則によれば、負債を立てれば、反対側に資産が立つので、国の借金は、国民の資産となる。

これは自明の理であり、会計原則を知らない国民を愚弄するものだ。

2 ゴマカシ報道の真実は?

今回は、この財務省のゴマカシについて、真実はどうなっているのか、会計原則の複式簿記から明らかにしてみたい。

2.1 会計の原則・複式簿記

政府・企業を問わず、お金を使う取引を正確に表すためには、複式簿記を使わなければならないことは、常識であり、当然のことながら、財務省もわかっていることである。

複式簿記とは、簡単に言えば、取引を、原因と結果に分けて記録する方式である。
具体的に言うと、原因と結果それぞれの内容、すなわち資産・負債の増・減、に応じて次のように左右に記録する。

資産の増、または、負債の減 を、左の借方に
負債の増、または、資産の減 を 右の貸方に

記録する。

これを仕分けの原則という。

 借方 貸方
 資産の増・負債の減 負債の増・資産の減

2.2 財務省のゴマカシを複式簿記で解くと・・・

2.2.1 『国の借金1200兆円』とは

この具体的なプロセスは、以下のとおりとなる。

  1. 政府が国債という負債を1200兆円発行して(原因)、民間銀行に売る。
  2. 民間銀行は、民間銀行の資産である日銀当座預金1200兆円を、国債購入代金として、政府の日銀政府預金に振り替えて、資産としての国債を手にする。この結果、政府は、資産としての日銀政府預金1200兆円を手にする(結果)。
  3. 以上の取引の中で政府の取引を複式簿記で書くと、負債の国債で、資産の日銀政府預金を得る。

     借方(資産の増) 貸方(負債の増)
    政府 日銀政府預金1200  国債1200
  4.  

  5. 以上の取引の中で民間銀行の取引を複式簿記で書くと、資産の日銀当座預金を減じて、国債を得る。

     借方(資産の増) 貸方(資産の減)
    民間銀行 国債1200 日銀当座預金1200

 

2.2.2 『国民一人当たり1000万円の借金』とは

次に、政府は、前2.2.1項で得た資産である日銀政府預金1200兆円を、今回は、わかりやすくするために、すべて国民給付に支出した場合に、国民の得た国民給付金は、財務省の言う通り、借金のままなのか、逆に資産になるのか、明らかにしたい。

この具体的なプロセスは、以下のとおりとなる。

  1. 政府は、政府の資産である日銀内の日銀政府預金1200兆円を減じて、民間銀行の資産である日銀当座預金に振り替えると同時に、民間銀行に対して、国民の民間預金口座に1200兆円を振り込むよう指示する(原因)。
  2. その結果、政府としては、国民給付事業の成果として1200兆円の成果を得ることになる。また、民間銀行の資産である日銀当座預金額と、国民の資産である民間預金額はともに、1200兆円増加する(結果)。
  3. 以上の取引の中で政府の取引を複式簿記で書くと、日銀政府預金を減じて、国民給付事業の成果を得る。

     借方(資産の増) 貸方(資産の減)
    政府 国民給付事業成果1200  日銀政府預金1200
  4.  

  5. 以上の取引の中で民間銀行の取引内容を複式簿記で書くと、資産である日銀当座預金に日銀政府預金から民間預金額と同額の資金が振り込まれるので、政府の指示で、民間銀行にとっては、負債である民間預金を新たに作ることが出来る。
    同時に、当初2.2.1項で、国債を購入するために支出した日銀当座預金1200兆円が戻った形となるので、次の国債購入資金に困ることもない。したがって、財政出動をともなう国債は、永遠に買い続けることが出来る。


     借方(資産の増) 貸方(負債の増)
     民間銀行 日銀当座預金1200 民間預金1200

    (注) 民間預金は、国民から見れば、当然国民の資産だが、民間銀行から見れば、いつでも返済する義務を負うので、負債となる。

  6.  

  7. 以上の取引の中で国民の預金の内容を複式簿記で書くと、政府からの国民給付により、新たな国民の資産として民間預金が作られる。

     借方(資産の増)  貸方
    国民  民間預金1200

 

2.2.3 以上の 『国の借金1200兆円は、国民一人当たり1000万円の借金』をまとめて書くと

前2.2.1項と2.2.2項の5つの表を一つの表にすると次の表となる。


組織  借方 貸方
 政府が国債1200兆円を発行して、民間銀行に売る  政府  日銀政府預金1200  国債1200
 民間銀行  国債1200  日銀当座預金1200
  政府は、日銀政府預金1200兆円を全額国民給付に支出して、国民の民間預金をトータルで1200兆円増加する  政府  国民給付事業成果1200 日銀政府預金1200
 民間銀行  日銀当座預金1200  民間預金1200
 国民  民間預金1200

 
この表の中で、各組織ごとに、借方・貸方で同一科目について、上表のように相殺整理(消去)して、残った項目だけ、表示すると次表となる。


 組織 借方 (資産の増)  貸方(負債の増)
 政府  国民給付事業成果1200  国債1200
 民間銀行 国債1200  民間預金1200
 国民  民間預金1200

この表から、次のことが言える。

政府の負債である国債1200兆円は、国民の資産である民間預金1200兆円となる。 

よって、国民一人当たりにすると、1000万円の資産となる。

3 結論

財務省の主張:『国の借金は、1200兆円、国民一人当たり1000万円の借金』は、真っ赤なウソであり、

真実は:『国の借金は、1200兆円、国民一人当たり1000万円資産

となる。

ここで、問題にするべきことを以下述べる。

1 国の借金は、国民の資産(実際はインフラ整備等にも支出するので、正確には、国または民間企業や国民の資産)になるにもかかわらず、借金になるとウソをついて国民に不安感を植え付け、国債発行による財政出動を著しく削減し続けた結果、日本の国力の減退は、

国民一人当たり名目GDP世界ランキング2000年2位 ⇒ 2023年34位 ⇒ 2024年38位(IMF)

と大きく転落させ、しかも転落速度が加速されている。

2 冒頭でも述べた通り、財務省は、この会計原則から導かれる真実の姿を、わかっておりながら、マスコミを利用しながら、会計原則を知らない一般国民を欺き、誤った認識に陥れようとする謀略であり、悪質な犯罪と言わざるを得ない。

3 さらに、財務当局は、財政法第4条(第四条 国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない)を盾に、国の歳出を税収の範囲内に抑えて、国力削減に努めてきたが、この財政法は、日本占領時代の昭和22年にGHQにより制定された占領政策の一環で、日本の国力削減を目的とした法律で、第4条はその中核条項である。

4 本来ならば、この第4条は、昭和27年のサンフランシスコ講和条約制定時、すなわち、日本独立時に、改定しておくべき重要な政策であったにもかかわらず、70年間も放置して、しかも遵守してきたことは、これまた重大な問題である。

5 これは、日米合同委員会など、国力削減をねらうアメリカの思うつぼであり、すでに述べたように、このままでは、転落は、更に加速する。

6 国債償還しているのは日本だけ

さらに悪いことに国債償還しているのは、日本だけ、という問題がある。
先進各国の債務管理制度は、財務省の『諸外国の債務管理政策等について 平成27年4月17日』の中で、次表の『諸外国の債務管理(公債制度編)』に示すとおりとなっており、日本だけが、財政赤字でもまじめに国債の償還をする60年償還ルールを実施している。

諸外国の債務管理(公債制度編)より抜粋

日本 アメリカ イギリス フランス ドイツ イタリア
国債の償還 償還ルール 財政赤字でも償還(一般会計からの繰入により60年かけて公債を償還(60年償還ルール)) 財政黒字になれば償還
(明示的なルールなし)
借換財源 『借換債』の発行、一般会計からの償還費の繰入により調達 国債発行により調達

アメリカ等各国は、特に明示的なルールはなく、国の寿命も半永久的であることから、大口国債は、すべて借換債でつないでいくという考え方を取っている。

日本だけが馬鹿正直に償還して自らの首を絞めている形を取っている。これも先進各国の形に改めるべきだと思う。そもそも、国債を償還するということは、せっかく作り上げた富の一部を返却するということで、好ましいことではない。

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