目次
1 はじめに
ザイム真理教をはじめとする財務省の悪事を追及するインターネット上の言論は、かなり華やかになってきましたが、コメントを含めて、いろいろ見ておりますと、やはり、日本国民の国の財務、といいますか、経済の根幹にかかわる会計の基礎知識に関するリテラシーが、決定的に欠けていると感じざるを得ません。
そこで、これだけは、日本国民として、最低限おさえておきたい会計の基礎知識、特に簿記会計の基本を、国の財務に焦点をあてながら、述べてみたいと思います。
これを機会に、財務省のゴマカシ・プロパガンダ・・・少なくとも初歩レベルの『国の借金が財政破綻をもたらす!』くらいは、自らの頭で論破できるくらいになっていただければ幸いです。
2 会計の基礎『簿記』とは
1 簿記
国が毎日の行政活動を行っていると、お金や物の出入りが発生します。このお金や物の出入りを金額として記録するための手法を『簿記』と言います。 この出入りのことを取引と言いますが、どんな取引にも、『原因』と『結果』という2つの側面があります。 この『原因』と『結果』となる事象のことを、会計では、勘定科目と言います。
1つの取引について、この両者を表現しなければ、正確な『取引』を把握することが出来ません。 この『取引』を2つの側面から記録する手法が『複式簿記』です。 1回の取引を左右2つの項目に分けて、それぞれに原因と結果としての勘定科目と金額を記入します。 左側の項目を『借方』、右側の項目を『貸方』と呼びます。
表1【例】5000円の商品を現金で買った
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
資産(商品) | 5000 | 資産(現金) | 5000 |
この取引を説明すると、次のようになります。
①取引の結果として資産である5000円の商品を手に入れた(資産がプラス)、
②その原因として、資産である現金5000円が減少した(資産がマイナス)
2 資産・負債について
取引の対象(原因と結果)は、様々ありますが、企業会計上、対象を分類すると次の5つの勘定科目グループに分類されます。
表2 取引対象グループ(勘定科目)と帳簿名
勘定科目 | 本稿で扱う科目※ | 帳簿名 |
---|---|---|
① 資産 | 〇 |
貸借対照表
|
② 負債 | 〇 | |
③ 純資産 | ||
④ 費用 |
損益計算書
|
|
⑤ 収益 |
※:「国の財務書類」ガイドブック(財務省)によれば、【国の財政活動は、強制的に徴収された税収等を財源としてこれを配分し執行しており、利益獲得を目的としていないことから、国においては、企業会計のような損益計算書の作成は行わないこととしています。】から、以下、扱う勘定科目については、貸借対照表関係の資産・負債として、損益計算書関係の勘定科目(費用・収益)については、扱わないこととします。
・資産:行政活動に必要なもの【例】預金、現金など
・負債:政府外から調達したお金で返済義務を伴うもの【例】国債など
ここで重要なことは、同じもの、例えば国債とか、預金、でも、立場によって資産となったり、負債となったりする、ということです。
国債は、政府が、資金を調達する手段のひとつで、元本保証・利子支払いを約束して発行する有価証券ですが、政府の立場で見れば、返済義務を負うので負債となります。しかし、この国債を、政府以外の日本銀行、民間銀行、一般国民が所有する場合は、元本と利子を受け取る権利を有するので、その所有者の立場から見れば、資産となります。
預金も、日本銀行内にある政府の預金である日銀政府預金は、政府の立場から見れば資産ですが、日本銀行の立場から見れば、政府から支払要求が有れば、いつでも資金を支払わなければならない義務があるので、負債となります。
また、同様に日本銀行内にある民間銀行の預金である日銀当座預金は、民間銀行の立場から見れば資産ですが、日本銀行の立場から見れば、民間銀行から支払い要求があれば、いつでも資金を支払わなければならない義務があるので負債となります。
民間銀行にある、われわれの預金もわれわれの立場から見れば、資産ですが、民間銀行の立場からみれば、支払い要求に応じていつでも現金をわれわれに支払わなければならない義務があるので、負債となります。
この立場による資産・負債の違いを、国債と預金について一覧にしたものが表3です。
表3 国債および預金の資産・負債区分
財貨 | 国債 | 各種預金 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
立場
|
政府
|
政府以外
(日銀・民間銀行等) |
日本銀行内 | 民間銀行内 | ||||
日銀政府預金 | 日銀当座預金 | 民間銀行預金 | ||||||
政府 | 日本銀行 | 民間銀行 | 日本銀行 | 一般企業 一般国民 |
民間銀行 | |||
資産 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||||
負債 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
3 仕分けのルール
前2.1項の表1【例】で見たとおり、ひとつの取引は、資産・負債の増減の組み合わせとして表示することが出来ます。
仕分けのルールとは、取引内容に応じて、資産・負債が増減するわけですが、資産・負債のそれぞれの増減を左右どちらに記録するかを決めたルールです。
この表1【例】は、現金という資産を使って、商品と言う資産を得た取引ですが、商品の増という資産の増を左側に、現金の減という資産の減を右側に記入しています。
したがって、ルールの第1は、資産の増は、左側、資産の減は右側、ということになります。
残るは負債ですが、資産の逆で、負債の増は、右側、負債の減は、左側ということになります。これは例えば、借金をローンで返済する場合に該当します。
このルールを一覧にしたものが、表4仕分けのルールです。
表4 仕分けのルール
借方 | 貸方 | |
---|---|---|
資産 | 資産が増えた + | 資産が減った ― |
負債 | 負債が減った ― | 負債が増えた + |
以上の簿記の基礎知識をもとにして、財務省のプロパガンダである
国の借金が国を破綻させる!
を解析してみよう。
3 財務省のプロパガンダとその検証
1 プロパガンダ
財務省の【財政学習教材 日本の財政を考えよう】の中で【10.「借金」の主な問題点】が、次のように書かれています。
今の世代が借金をして、自分たちのために支出を行うと、こどもや孫、ひ孫など、将来の世代に負担を先送りすることになります。
① 負担の先送り
社会保障の給付と負担のアンバランスな状況をはじめ、借金返済の負担が先送りされることで、将来の国民が社会保障や教育など必要なものに使えるお金が減少したり、増税などによって負担が増加するおそれがあります。
② 財政の余力(ゆとり)が少なくなる借金が膨らむと、自由に使えるお金が少なくなってしまい、大きな災害などによって多くのお金が必要となった場合に、すぐに対応できなくなってしまうおそれがあります。
この財務省の【問題点】を見てどう思いますか?
私は、これが、日本円という通貨を発行する権限を有する日本国の財務省が、財務省の公式見解である、とホームページで世界に公開していること自体が【問題点】であると考えます。
ここに書かれている内容は、【通貨発行権を持たない一般家庭】における問題点です。
以下、財務省のストーリーにしたがって、そのプロセスを簿記で追いながら、その結論が、正しくは、どうなるのか、見てみましょう。
2 その検証
1 【今の世代が借金をする】:政府が国債を発行、民間銀行に売却して政府預金を得る
この取引のプロセスには、3者が関係します。政府、民間銀行、日本銀行です。
① 政府が負債である国債を発行して、民間銀行に売却する。
② 民間銀行が、資産である国債を購入する。同時に日本銀行に国債購入代金を日銀当座預金から日銀政府預金へ振替えるよう依頼する。
③ 日本銀行は、民間銀行の資産である日銀当座預金から国債購入代金を、日銀政府預金に振替える。なお、日本銀行は裏方なので、結果を整理すると、表5の下段となります。
表5 政府が国債を発行して、民間銀行に売却して政府預金を得る
プロセス | 借方 | 貸方 | |
---|---|---|---|
① | 政府 | 国債+ | |
② | 民間銀行 | 国債+ | |
③ | 日本銀行 | 日銀当座預金― | 日銀政府預金+ |
⇓ | |||
① | 政府 | 日銀政府預金+ | 国債+ |
② | 民間銀行 | 国債+ | 日銀当座預金― |
(備考) 上段③の日本銀行・借方・日銀当座預金―は、日本銀行にとっては、預金は負債なので、仕分けのルールから、負債の減(―)は、左側の借方記入となります。
同時に、この日銀当座預金は、民間銀行にとっては資産なので、仕分けのルールから、資産の減(―)は、右側の貸方記入となります。
銀行内の預金口座については、銀行側と、預金者側とで、資産・負債の区別が正反対となりますので注意が必要です。銀行側から見れば負債であり預金者側から見れば資産となります。
2 【自分たちのために支出を行う】:政府が政府預金を使って政府事業を行い支出する
ここでは、わかりやすくするために、政府事業として、新型コロナ騒動時に、国債発行で得た日銀政府預金を国民給付金として国民一人当たり10万円の給付をした事業を例として見てみましょう。
この取引プロセスでは、4者が関係します。政府、民間銀行、国民、日本銀行です。
① 政府は、日銀政府預金を原資として国民給付事業を実施する。政府は、日本銀行に対して、国民給付金相当額を日銀政府預金から日銀当座預金(民間銀行の資産)へ振替えるよう指示するとともに、民間銀行に対して、国民預金の国民給付金相当額の増額を指示する。
② 民間銀行は、国民預金を増額する。
③ 国民は、国民預金の増額を確認する。
④ 日本銀行は、①後半の政府からの指示で、日銀政府預金から日銀当座預金へ国民給付金額相当額を振替える。なお、日本銀行は裏方なので、結果を整理すると表6の下段となります。
以上を簿記にすると、表6となります。
表6 政府が国民給付事業を行って、国民に国民給付金を支給する
プロセス | 借方 | 貸方 | |
---|---|---|---|
① | 政府 | 国民給付事業+ | |
② | 民間銀行 | 国民預金+ | |
③ | 国民 | 国民預金+ | |
④ | 日本銀行 | 日銀政府預金― | 日銀当座預金+ |
⇓ | |||
① | 政府 | 国民給付事業+ | 日銀政府預金― |
②
|
民間銀行 | 日銀当座預金+ | 国民預金+ |
③ | 国民 | 国民預金+ |
3 結論
1 検証の結果
以上の表5と表6の下段をまとめて書くと、表7の上段となります。この表7上段を整理すると表7下段となります(表7備考参照)
プロセス | 借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|---|
1 今の世代が借金をする
|
① | 政府 | 日銀政府預金+ | 国債+ |
② | 民間銀行 | 国債+ | 日銀当座預金― | |
2 自分たちのために支出する
|
① | 政府 | 国民給付事業+ | 日銀政府預金― |
② | 民間銀行 | 日銀当座預金+ | 国民預金+ | |
③ | 国民 | 国民預金+ | ||
⇓ | ||||
今の世代が借金をして、
自分たちのために支出を行う |
政府 | 国民給付事業+ | 国債+ | |
民間銀行 | 国債+ | 国民預金+ | ||
国民 | 国民預金+ |
(備考)
① 政府:借方の日銀政府預金+は、民間銀行の国債購入代金の入金で増えたのですが、貸方の日銀政府預金―は、その後国民給付事業のため支出したので減ったわけです。結局、プラス・マイナスゼロになるので、この科目は相殺されて消えます。残るのは、借方の国民給付事業+と貸方の国債+だけとなります。
② 民間銀行:貸方の日銀当座預金―と借方の日銀当座預金+は、国債購入のために日銀当座預金は減りましたが、その後、政府の国民給付事業のために、同額、日銀当座預金が増えるので、結局、マイナス・プラスゼロになるので、この科目は相殺されて消えます。残るのは、借方の国債+と貸方の国民預金―だけとなります。
結局、表7の下段3行が、財務省のプロパガンダを簿記にした最終的な結論になりますが、これから何がわかるのでしょうか。
【国の借金(国債)は、そのまま、国民の資産である預金となる】
ということがわかります。
財務省の説明は、全くの逆であり、ウソということがわかりました。
したがって、財務省のその後の言い分①、②もウソであることが判明したわけです。
2 国債残高とは?
結局、国債発行・売却・支出とは、何か、と言えば、われわれ国民の資産を新たに作る新規通貨の発行と、それの国民への分配、ということになります。
したがって、国債残高というのは、その新規通貨発行額の過去からの累計である、ということになります。
わが国のGDPが、この30年間、停滞したままになっていたのは、この政府の国債発行による財政出動が、あまりにも少なすぎたためだったのです。
【国の借金が1200兆円もあって、問題】という論調が、テレビ・新聞・『主流派経済学者』なども含めて流されていますが、これは、とんでもない誤りであり、【国富の成長の痕跡】そのものなので、これは大きいほど国が豊かになる。というわけです。
では、これからが大切なのですが、われわれとしては、どうすれば良いのか?
よく、X とか、Youtube を見ていると、単に【財務省解体!】などの主張が見られますが、これだけでは、敵の思うツボです。
名前を変えた『✖✖省』が、また同じことをやってきて、日本をさらにボロボロにするだけです。
具体的に、何をどうすれば良いのか、という具体策が、どの主張にも見当たりません。
次回は、すぐに実施可能な具体策について、その根拠を明らかにしながらご説明したいと思います。