ある地方紙、いまだに【国の予算は過去最大 財政は大丈夫?】のレベル(2025/5/20修正)

2025年5月19日3面の記事だ。その内容は、結論から言うと、完全に財務省の財政を知る、考える】にある多数のパンフレット教材の焼き直しそのものだ。

1 デフレ脱却には大量の通貨供給が不可欠

そもそも、115兆円程度で、このデフレを乗り切ろうとする考え方が、ドケチすぎる。30年間のGDP無成長を取り戻すのに、どれだけの通貨が必要になるのか、おそらく、この地方紙記者は、勉強もせずに、単に財務省から、わたされた記事資料を、そのまま書いたんだろうと推察する。

2 アベノミクスの柱・黒田日銀【異次元の金融緩和】

前日銀総裁の黒田氏は、毎年100兆円規模の財政出動が必要と考えて、その前段である日銀当座預金の準備のため、【異次元の金融緩和】で異常と思えるほどの【買いオペ】を実施し、民間銀行の国債を買いまくった。彼は、日銀の出来る範囲内で最大限の努力をしたのだ。

本記事では、その【異次元の金融緩和】について、次の誤解を生じさせる中途半端な記述をしている。

【日銀は銀行などの金融機関が保有する日本国債を買い入れ、代金として金融市場に大量のお金を供給しました。

だけで、終わっている。正確には、【代金として金融市場すなわちマネタリーベースに大量のお金を供給しましたが、それが、その後、実物市場であるマネーストックには供給されなかったので、そのお金は生かされずにインフレ率2%の目標は、達成されなかったのです。】と続きの説明をしないと、わけのわからない無責任な記事となる。

さらに、詳しく書くとすれば、次のようになる。

【日本銀行は、民間銀行等保有の国債を購入する代金として、大量の新規通貨を発行して(これを日本銀行の信用創造という)、日本銀行内にある民間銀行等の資産である日銀当座預金口座に振り込んだ。すなわちマネタリーベースに供給した。ここまでが、日本銀行の出来る業務範囲だ。

次にこの大量のお金を、日本経済の血液として循環させるためには、実物市場であるマネーストックに供給しなければならないが、これは、政府・財務省の業務範囲となる。具体的には、この膨大な民間銀行の資産である日銀当座預金を、日銀内にある日銀政府預金に振替えて、政府の資金にして、政府が財政出動の原資として使えるお金にする。

この日銀当座預金を政府の財源とする手段が、政府・財務省による国債発行・民間銀行等への売却なのだ。その売却代金として日銀当座預金を日銀政府預金に振替えることにより、政府は莫大な財源を得ることが出来る。これには、税金は一切不要だ。

黒田氏の構想がとん挫してしまったのは、この国債の発行・売却業務を、政府・財務省は、意識的な不作為により実施しなかったのだ。

したがって、この膨大なお金は、実物市場に出回らなかったため、日本経済回復は実現せず、インフレ率2%の目標も達成されなかった。】

つまり、前日銀総裁の黒田氏は、日本経済再生のために、民間銀行等の国債を買いまくって、膨大な新規通貨を発行して、民間銀行の資産である日銀当座預金を大いに潤したのだが、それに続いて実施されなければならなかった国債の発行・売却による政府財源の確保が、政府・財務省の、不作為のため、実施されなかった。その結果、いまだに日本は、貧困国にあえいでいる。

このことは、当時の日銀副総裁の岩田規久男氏も、黒田東彦(Wikipedia)の後段【マイナス金利の導入とその前後の経済動向】にあるが、次のように訴えていた。

【岩田規久男・前日銀副総裁「日銀だけが一生懸命やっているが、財政は逆噴射しているのが実情であり、今は日銀の金融超緩和政策と積極財政の協調が不可欠」とし、このまま消費増税を実施すれば「黒田東彦日銀総裁は、10年かけても物価2%が達成できなかった駄目な総裁で終わってしまう」と述べ、デフレ脱却には10%の消費税率引き上げを撤回するとともに、国債発行を財源として若い世代に所得分配する財政拡大が不可欠と訴えた。】

3 日銀保有国債52%が問題なのか

【日銀は24年3月に異次元緩和を終了しましたが、国債の保有額は24年12月末時点で559兆円です。発行額全体(1074兆円)の52%を占め異次元緩和を始める直前の13年3月末時点の11.5%から大幅に拡大しました。】

で終わっており、良いとも悪いとも書いていない。文脈からすると、悪いイメージを植え付けている。

しかし、日銀保有の国債が半分以上ということは、きわめて良いことだ。その理由は、日銀は政府子会社のため、政府全体として見れば、連結決算となり、国債の半分の負債は、ゼロになるからだ。この点を説明せずに、国民に単に不安感をあおる書き方も、問題だ。

4 英国トラス政権時(2022年)の大規模減税策にともなう国債金利の上昇問題

【英国では、当時のトラス政権が22年9月に大規模な減税策を打ち出して財政悪化が危惧され、英国債が売り込まれて長期金利が急騰しました。】

これは、当時の英国の状況を説明せずに、単に悪い面だけを強調した、悪質な記事だ。

当時の英国は、ものすごいインフレ状況にあった。この通貨過剰な状況の中で、大量の国債を発行して、財政出動し、通貨を供給したため、インフレがさらに悪化し、国債は不要だ、ということで、金利が急騰したわけだ。

現在の日本は、その真逆の状況にある。通貨不足によるデフレのさ中だ。国債の発行・売却による政府の財政出動により、新規通貨を増やす必要がある状況だ。したがって、英国の誤った政策による結果を、持ち出して、国債発行の不安をあおる本記事も、悪質だ。

5 日銀保有の国債を国内民間銀行もしくは海外機関投資家に引き受けさせる???

【日銀が購入していた量の国債を国内の金融機関が引き受けていくのは現実的ではありません。今後は海外の機関投資家による日本国債の保有比率が高まるとみられ、それに伴い、日本の財政は国外からの厳しい視線にさらされることになります。】

これまた、まったくの勉強不足を露呈した記事だ。

そもそも、日本銀行と民間金融機関の間の国債の売買は、【オペ】(オペレーション)と言われる金融政策だ。

黒田さんの実施した【異次元の金融緩和】は、【買いオペ】だ。通貨不足のデフレ時代に民間銀行等の国債を新規通貨を大量発行して購入し、マネタリーベースに新規通貨を大量供給した。

対する【売りオペ】があるが、これは、インフレが行き過ぎた時に取られる金融政策で、本記事にある、日銀の国債を民間銀行等に売って、マネタリーベースのお金を代金として日本銀行が民間銀行から吸収する。マネタリーベースの通貨量を減少させる金融政策が【売りオペ】だ。

英国トラス政権時の問題は、通貨が有り余るインフレ時に、国債を大量発行して、通貨を市場に大量供給したから、たまらない。国債の金利暴騰は、起こるべくして起きた現象だ。

また、日銀が、国債を海外の機関投資家に売るわけがないし、そんな話も聞いたことがない。しかし、今の石破政権は、狂いだしているので、何をするかわからない、という点では、あながち心配しなければならないことかも知れない。

6 【消費税は社会保障費の安定財源はウソ】はすでに周知の事実

【消費税は社会保障費の安定財源です。飲食料品などに課されている軽減税率(8%)を0%にした場合、5兆円程度の税収を失います。毎年多額の国債を発行しているのに代替財源を確保するのは容易ではありません。減収分を国債の発行で補えば、財政はさらに悪化します。】

実態は、ほとんどが、国債の償還費にあてている。消費税収は、おおよそ、20兆円あるが、60年ルールによる国債償還費は、概算で

1000兆円 ÷ 60年 = 17 兆円

となるが、消費税収のほとんどが、この国債償還費に使われている。

このことは、重大で、先進諸国は、すべて、国債は満期時に償還せずに借換債でつないでいる。日本だけが、国債を償還しているが、これは、国富を削減していることと同じことなのだ。国力減退政策そのものだ。これは、ただちに国債全額、諸外国同様の借換債に移行すべきだ。

7 国債を発行してもデフォルトは起きない、海外資本の保有率は、たったの6.4%

【日本はコロナ禍対応の巨額の財政出動で20年度の一般会計の基礎的財政収支は80兆円の赤字に陥りましたが、デフォルトは起きませんでした。今後も国債の金利急騰やデフォルトは心配ないのか。その答えは容易に分かりませんが、日本の財政を評価するのは政治家ではなく、国際的な金融市場だということを忘れてはいけません。】

日本銀行の国債等の保有者内訳によると海外資本の保有率は、6.4%

現在、日銀当座預金の中で、流動可能な預金額は、500兆円もあると推定されるが、これを、仮に国債発行・売却・財政出動、さらに1年後の姿の全体プロセスを複式簿記の仕分けで書くとすれば、次のようになる。

プロセス 機関 借方 貸方
①政府、国債発行・売却 政府 日銀政府預金 500 国債 500
民間銀行等 国債 500 日銀当座預金 500
日本銀行 日銀当座預金 500 日銀政府預金 500
②政府、財政出動 政府 財政出動 500 日銀政府預金 500
国民・企業 普通預金 500 売上 500
民間銀行等 日銀当座預金 500 普通預金 500
日本銀行 日銀政府預金 500 日銀当座預金 500
③国民・企業、経済活動後(1年後) 国民・企業 預金 500 売上 500
民間銀行等 日銀当座預金 500 預金 500

これを見れば、政府の国債は、国民・企業の普通預金、つまり資産になることがわかる。

また、国債を購入する際に民間銀行等が支出した日銀当座預金は、1年後でも何年後でも、その額は変わらず、存在し続ける。したがって、毎年、民間銀行等は、同額の国債購入が可能であり、これを、日本経済が再生・復活するまで継続実施可能な政策なのだ。

この表に見られる通り、国債発行による財源確保策は、増税一切不要で、何の手間暇も必要なく手軽に実施可能な政策であり、政府および国民にとっては、まさに最適・最良な政策であることが明らかだ。

この事実を、財務省はじめ主要経済学者は、一切明らかにしないが、同時に、メディアも一切報道しない。

この事実を一人でも多くの方に広く伝えあって、日本国再建に結びつける必要がある。

失われた30年の回復のためには、今後最低でも5~6年間は、毎年100兆円規模の国債発行による財政出動が不可欠と考える。

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